海外の町家建築(ベトナム・ホイアン世界遺産)
朱印船貿易は戦国時代末から江戸時代初頭にかけて行われた貿易です。
貿易で海外渡航をするには幕府から発行された朱印状と呼ばれる許可証が必要とされました。
幕府は朱印状の発行費と貿易で出た利益の納付を得ることができました。
当時倭寇が出現したり密輸貿易が横行していたこともあり、貿易商人は幕府公認の貿易船と認められることで航海中に危険に晒されることが少なくなりました。
朱印船貿易は鎖国で海外との交易が禁止されるまで行われます。
貿易相手国はベトナム、タイ、フィリピン、カンボジア、台湾など東南アジア諸国が中心です。
日本の主な輸出品は銀と銅、漆器で、海外からは絹、生糸、砂糖などを輸入しました。
輸入品の中心である絹、生糸は中国産のものが有名ですが、朝鮮出兵が原因で日本は中国との国交が断絶していました。
そのため中国へ入国できず、東南アジア諸国で貿易を行うことになったのです。
朱印船貿易では多くの日本人が東南アジア諸国へ渡り、日本人街を形成しました。
日本人街が作られたのはマニラ、プノンペン、アユタヤ、ホイアンの4か所です。
朱印船貿易が行われていたのは400年以上前のことで、ほとんどの日本人街は消えてしまいましたが、ベトナムのホイアンに唯一の日本人街が残っています。
朱印船貿易で発行された朱印状の発行数のうちの約1/4はホイアン宛で、日本と親交が深い取引先であったことがうかがえます。
ホイアンはベトナム中部のクアンナム省の都市です。
中国風の民家が立ち並ぶ独特の雰囲気がある街で、その古い町並みは1999年に世界遺産に登録されました。
ホイアンはベトナムの人気観光地でもあります。
縁日のように賑やかなナイトマーケットや川沿いのエキゾチックな夜景はホイアンならではの風景です。
廣肇會舘(こうちょうかいかん)や陳祠堂、海のシルクロード博物館などの観光名所もあります。
海のシルクロード博物館では日本との交易で輸入された発掘品が展示されています。
日本橋(来遠橋-ライオン橋)について
ホイアンの西側の入口には少し変わった橋が架かっています。
1593年に日本人によって作られたと言われる日本橋です。
来遠橋(ライビエン)橋とも呼ばれています。
来遠橋の名称は論語の「朋あり遠方より来たる、また楽しからずや」という一説が由来です。
日本橋は幅3m、長さ18mの木造の屋根付き橋で、中央が太鼓橋のように盛り上がっています。
橋の上には小さな寺院があり、航海の安全が祈願されていたそうです。
橋の内部は日本と中国の建築意匠が感じられる造りになっています。
橋は現在も通行でき、観光スポットになっています。
夕方から夜にかけて橋がライトアップされ、橋の下の川では灯篭が流されます。
日本人街の中の町家建設
朱印船貿易では日本人が頻繁に東南アジア諸国を訪れることで日本人街が形成されました。
日本人街は貿易拠点となり、現地に滞在する貿易商人も出てきます。
ホイアンの日本人街には約300人が住んでいたと言われています。
日本橋の東側にあるチャンフー通りから川沿いにかけて、京都の町家に似た建物が残っています。
朱印船貿易が行われていたのは約400年前のことで、当時の街並みと変わった部分もあります。
日本の鎖国によって朱印船貿易が行われなくなると、ホイアンは貿易拠点の役割を失い、日本人街には中国系の華僑が住むようになりました。
その結果、ホイアンの街並みは維持、発展を遂げることになります。
現在ホイアンに残る建造物の建築年代と建築意匠は実に様々です。
日本と中国の建築文化が混在したり、比較的新しい建物も見られます。
古くから残る伝統的な町家は日本にあるものとよく似ています。
建物の表側では商売が行われ、建物の奥を生活拠点にしていたことがうかがわれます。
そして間口が狭く奥行きが長くて、その間には中庭や奥庭が造られています。
まるで京町家そのものです。
日本人が残したもの
ホイアンの街には朱印船貿易の名残で形成された日本人街、日本橋が残っています。
現地の観光名所となっている古民家フン・フンの家や陳祠堂、金勝號には日本の建築意匠や室内装飾が見られます。
ホイアンは日本文化と中国文化を継承しながら、独自の文化を発展させてきました。
食文化にも日本らしさが残っていて、街中には漢字を用いた看板を掲げた飲食店があります。
ホイアングルメにはカオラウという食べ物があります。
汁なしの米麺で日本の伊勢うどんが由来と言われています。
日本人が住んでいた跡地からは古伊万里の破片や仏具などが発見されています。
街の郊外には日本人墓地もあり、現地の人たちによって守られ続けています。
ホイアンに日本人が残した数々の文化、伝統は今も残り受け継がれています。
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最終更新日:2020年3月3日投稿日:2019年11月8日