民家のリノベと活用
民家について
民家とは庶民の住宅の総称です。
最も古い民家は竪穴式住居になります。
民家は身近なところにある自然界の素材を用いて作られ、先人の生活の知恵が詰まった産物です。
風土と深い関わりのある民家には決まった形がありません。
民家の魅力は、実用と耐久性が構造美である建築の意匠へとつながっています。
様々な建築様式の民家がありますが、昔ながらの家は古き良き日本を感じさせてくれます。
民家の建築は家相に忠実です。
家相とは現代で言う風水のことで、中国から伝来しました。
土地や建物の間取りの方角によって家の明暗が決まり、建築設計は家相に基づいて行われました。
例えば玄関、台所、トイレは鬼門に作ると不吉とされています。
鬼門とは北東を指し、邪気が出入りする方角です。
現在は昔に比べて設備が充実し平面計画が容易になり、機能性の高い住まいが要望されるため、家相の用い方は薄れつつあります。
民家は地域の気候・風土、時代の影響を受けているため一貫性はありませんが、建物の構成や付属部分が類似しています。
続いて民家の耐久性についてです。
近代建築の寿命はコンクリート造で約80年と言われていますが、民家は200年以上の寿命があります。
建築技術は進歩を重ね続けていますが、民家が長持ちするのは不思議なことです。
民家の耐久性の秘密は素材にあります。
使用素材は地産の木材が中心です。
木材が痛む要因は腐食と伸縮の繰り返しです。
木は腐朽菌と呼ばれる菌の分解作用によって腐ります。
腐朽菌が繁殖する条件は適度な湿度・温度と空気です。
湿度・温度・空気のうち1つでも条件が欠けると、腐朽菌の増殖を防ぐことができます。
腐朽菌が活動しやすくなる温度は30度で、日本ではちょうど夏にあたります。
木には調湿作用がありますが、高温多湿の環境ではどうしても腐敗が進みやすくなります。
伸縮は調湿作用によって起こります。
木材は吸湿すると膨張し、乾燥すると縮みますが、伸縮を繰り返すと木の繊維が傷んで老朽化します。
湿度の高低差が少ないと劣化が進みにくくなります。
日本の環境では木材の老朽化が起こってもやむを得ませんが、木材は育った環境に適合する性質があります。
地産地消の木材使用は民家の耐久性に寄与しています。
木構造も真壁工法で柱自体に通気性を持たせているのと、
木のあらわしで傷みの程度がわかるので取替も容易でメンテナンスがしやすく、結果的に長持し耐久性が上がります。
民家の家屋の構成
民家は庶民の住宅の総称で住まいのあり方、間取りに決まった形はありません。
民家の種類を大別すると農家と町家に分けられます。
農家は間取りと土間が特徴的です。
間取りは主に広間型と四間取りが取り入れられました。
四間取りは「田」の字の形をした間取りです。
土間は屋内に設けられた台所、作業場です。
農家は大工が建てることもあれば、地縁をもとに地域の人が協力し合って造ることもありました。
町家は商工業活動を中心とした都市型住居です。
間口が狭く、奥行きのある建物が多く見られます。
町家が軒を連ねて並ぶ様子を「町並み」と呼びます。
並びにある町家は町の通り、外観との調和が図られています。
民家の構成は一貫性がなく地域差もありますが、よく見られる意匠として母屋、付属建物の蔵・物置などがあります。
母屋とは民家を構成する中心的な建物のことです。
付属建物の蔵・物置は母屋に次いで生活で欠かせない役割を担ってきました。
蔵は食料や家財の保管・貯蓄場所で、蔵造と呼ばれることもあります。
多くの地域で店蔵、蔵屋が見受けられますが、「蔵が立つ」という言葉があるように蔵は裕福な商家、家庭を中心に造られた建物です。
ちなみに「蔵が立つ」は大金持ちになるたとえです。
蔵は火災や盗難の被害から大切な財産を守る役割があります。
物置も収納用の付属建物です。
蔵と物置の違いは使いやすさと建築意匠です。
物置は建築意匠よりも使いやすさが重視されます。
民家の改修計画
現在も残っている民家を利用するには、建物の特徴と改修箇所を把握する必要があります。
民家の再生にあたって知っておきたいことは、その建物の状態や傷み具合等を詳細に現場調査することが必要です。
さらに使用用途に応じたリノベーション計画を検討しなくてはなりません。
相当な築年数を経ている古民家の改修目的の中では特に劣化対策や耐震及び防火対策が新たに必要になります。
基礎工事を行い、老朽化している部分を中心に部材の取替等を行ないます。
民家は独立性がないため、住居として利用するなら間取り変更が前提になります。
設備機能も老朽化しているので、解体・新設工事を行う必要があります。
工事費用がかかりますが、その他にも建具、床暖房などをリノベーション時に工事をすると良いでしょう。
トイレ・お風呂・洗面台の設置、電気・ガス・水道の配線、配管設備の配管の新設を行わないと利用できない建物もあるので、
民家をそのまま引き継ぐ場合は気をつけましょう。
民家の今後の活用について
民家の使われ方は多様ですが、建物の利用者がいないと空家になってしまいます。
空家になる背景には高齢化社会、継承者の不在、建物の老朽化などが挙げられます。
空家になると建物の老朽化が進み、結果周辺環境を悪化させることになります。
古い建物は地震や災害などで倒壊する危険性があり、やむを得えず解体にいたることもあります。
価値ある歴史的建造物が取り壊されているのも事実です。
しかし、空家は地方都市を中心に年々増え続けています。
2015年に空き家対策特別措置法が制定されましたが、主な内容は倒壊や環境悪化につながる建物の改善指導・命令、撤去などの強制措置です。
空家の保全・活用・継承を行うにあたって、最も効果的な解決策は使い続けることです。
民家の使い方として住居、賃貸、店舗、宿泊施設、レンタルオフィス、サテライトオフィスなどを挙げましたが、
建物をリノベーションしても利用者が見つからないことには意味がありません。
積極的に空家を活用するには、空家バンクの登録がおすすめです。
空家バンクとは、空家の賃貸・売却を希望する人が物件を登録し、利用者を見つけて物件を有効活用してもらうシステムです。
全国の7割以上の市町村で空家バンクが運営されています。
空家の活用は防災・防犯のほか、定住促進になることが期待されています。
空家バンクに登録されている物件は各市町村で紹介されているほか、全国版の検索サイトで見つけることもできます。
民家はリノベーションによって利用価値が高まるほか、新築住宅と比べて工費がリーズナブルです。
住宅や店舗など不動産を探す際は民家も視野に入れてみると良いでしょう。
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最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年9月20日