地鎮祭
地鎮祭とは、建築工事が着手される前に行われる儀式です。
建物を建築予定の敷地のけがれを祓(はら)い、工事が無事にすすむように祈願します。
「とこしずめのまつり」「じまつり」とも呼ばれます。
地鎮祭で祀られる神様は大地の守護神である大地主神(おおとこぬしのかみ)と土地の氏神様である産土の大神(うぶすなのおおかみ)です。
建築祭式の流れは、手水から始まります。
手水とは、祭場に入る前に手を洗って身を清めることです。
開式後は修祓、降神の儀、献饌、祝詞奉上、清祓の儀、各行事(地鎮の儀など)、玉串奉奠、撒饌、昇神の儀の流れで進行します。
建築祭式の内容はほとんど同じですが、各行事の部分だけ祭式によって変わります。
儀式で行われる内容を少し説明します。
修祓(しゅばつ)はお祓いのことで身の汚れを祓います。
降神の儀(こうしんのぎ)は、祭場に神様をお迎えする儀式です。
献饌(けんせん)では、お迎えした神様にお供え物をします。
米、酒、塩に合わせてごちそうでおもてなしをします。
魚や野菜などを供えることもあり、地域色が出る儀式です。
祝詞奏上(のりとそうじょう)は、斎主が工事の安全と建物の安泰を祈願します。
「祝詞」とは、神を祀って願う言葉で斎主が代表して読みます。
文体は古文調で旧仮名遣いです。
清祓の儀(きよはらいのぎ)は、神の力で敷地内の悪霊や穢れをお祓いする儀式です。
次の各行事のみ建築祭式によって内容が変わります。
地鎮祭では地鎮の儀が行われます。
地鎮の儀は「苅初の儀」「穿初の儀」「鍬入の儀」の3つで構成されます。
それぞれの儀式では鎌(かま)、鋤(すき)、鍬(くわ)を使います。
苅初の儀(かりぞめのぎ)では、設計者が鎌を持って草を刈る動作を3回行うのが一般的です。
穿初の儀(うがちぞめのぎ)は、建築主が鋤で盛砂を3度掘ります。
鍬入の儀(くわいれのぎ)も、盛砂を3回掘る所作を取り、施工者が行います。
内容と役割は地域によって違いが出ます。
玉串奉奠(たまぐしほうてん)は、神を敬って玉串を奉ることです。
玉串拝礼と呼ぶこともあります。
「玉串」とは紙垂(しで)や木綿(ゆう)をつけた榊のことで、神様にお供えします。
この儀式は建築主、設計者、来賓、施工者が一人ずつ玉串を奉り拝礼します。
撤饌(てっせん)では、献饌で奉られた神饌を取り下げます。
昇神の儀(しょうしんのぎ)で、神々はお帰りになり、建築祭式は閉会になります。
祭式の後は直会(なおらい)を行うことが多く、祭場で神前にお供えしたお神酒をいただいたり、会場を移動して祝宴を催すこともあります。
上棟式(目的と内容等)
上棟式は工事中に行われる儀式です。
建物の神と工匠の神にこれまで工事が無事に進んできたことを感謝し、竣工に向けて成功を祈願します。
祀られる神様は産土の大神(うぶすなのおおかみ)、手置帆負命(たおきほおいのみこと)、産狭知命(ひこさしりのみこと)、
屋船久久能知命(やふねくくのちのみこと)、屋船豊受姫命(やふねとようけひめのみこと)です。
上棟式も建築祭式の流れで進行します。
開式後は修祓、降神の儀、献饌、祝詞奉上、清祓の儀、各行事(上棟の儀)、玉串奉奠、撒饌、昇神の儀を順に行います。
地鎮祭と異なる点は、上棟式に職方が参加することです。
上棟式特有の行事は、清祓の儀の次に執り行われる上棟の儀です。
本来は木造建築の建物を対象にした儀式で、鉄骨造の建物の場合は儀式を行わないことや内容を変えることもあります。
上棟の儀では、「曳綱の儀」「槌打の儀」「散餅・散銭の儀」が行われます。
曳綱の儀(ひきつなのぎ)では、棟木を棟に引き上げます。
槌打の儀(つちうちのぎ)は、棟木を棟に打ち付ける儀式です。
散餅・散銭の儀(さんぺい・さんせんのぎ)は、餅や銭を散じることで禍を祓います。
形式的な行事を行うことが減ってきましたが、棟上げの際に餅まきをするのはその名残です。
竣工式、引渡式(目的と内容等)
竣工式と引渡式は建物の完成後に行われます。
竣工式では建物は無事に完成したことを神々に報告して感謝を伝えます。
そして、新築された建物の永続、建築主の繁栄を願います。
竣工式で祀られる神々は、産土大神(うぶすなのおおかみ)、屋船久久能知命(やふねくくのちのみこと)、屋船豊受姫命(やふねとようけひめのみこと)です。
竣工式特有の儀式は、清祓いの儀で、完成した建物のお祓いをします。
神職は祭場から出て、建物の入口や重要な場所をお祓いして清めます。
竣工式と類似した催しに落成式があります。
落成式は竣工式と明確な区別はありませんが、落成式では得意先や関係者、近所の人を招待します。
引渡式は正式な祭事ではありません。
建物の完成後、内覧会・施主検査を経て問題がなければ、建物が引き渡されます。
テープカットなどを行うこともあります。
その他
地鎮祭、上棟式、竣工式は三大建築祭式と呼ばれ、工事の節目に行われます。
工事の安全、建築主の繁栄、建物の永続を祈願するもので、それぞれの儀式で祀られる祭神は祈願目的によって変わります。
祭事が行われる日取りは古いしきたりが残っていて、暦の吉凶をもとに決められます。
六曜の大安、先勝、友引の午前中に建築祭式を行うのが一般的です。
地域や建物の種類によって、祭事の内容が変わることもありますが、建築祭式は工事の着工から竣工にかけて執り行われる神聖な行事です。
祭式は厳かでありながら工事が上手く進捗していることを祝う慶事でもあります。
三大建築祭式の他に火入式、点灯式、序幕式などの建築祭式もあり、いずれも色褪せることなく後世に伝えたい伝統的な儀式です。
最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年2月22日