屋根材の使われ方(歴史的に)
最古の屋根は縄文時代よりも前から存在していたと言われます。
当時の屋根は茅葺きの屋根で、葦やススキ、萱などのイネ科の細長い植物が用いられてきました。
茅葺きの屋根は防火性に欠けますが、通気性と断熱性に優れています。
夏は涼しく、冬は温かく快適に過ごすことができます。
茅葺き屋根の次に登場したのが板葺き屋根です。
古墳時代あたりから使用されていたと推測されます。
クヌギ、トクサ、サクラ、エノキ、スギ、ヒノキなどが素材になりました。
板の厚さによって、杮葺き(こけらぶき)、木賊葺き(とくさぶき)、栩葺き(とちぶき)に分けられます。
一般的に板葺き屋根とは杮葺きを指し、歴史的建造物や文化財の修復はサワラ材の杮葺きで行われます。
飛鳥時代になると瓦屋根が流入します。
瓦屋根は高級で寺院や城などに用いられました。
江戸時代に入ると浅瓦が登場し、軽くて安価な瓦が庶民の民家にも取り入れられるようになります。
瓦屋根は粘土を焼成したもので、植物性の茅葺き屋根や板葺き屋根より耐火性があります。
金属板を用いた屋根も江戸時代に普及します。
当時の金属板は銅板で高価だったので、神社、武家、商家など限られた場所で使われました。
明治時代になると金属板の屋根が一般的に使用されるようになります。
鉄板を亜鉛でメッキしたトタン屋根で、防火性が高く丈夫な素材です。
昭和時代に入るとスレート屋根が広まります。
一時期問題になったアスベストを使用したスレート屋根は、1960年代初頭から1990年代まで販売されていました。
健康被害が出る石綿を用いたスレートは現在使われていません。
スレート自体は今も建築材として用いられ、天然石製のものや有害性の少ない合成素材のスレート屋根があります。
地域と屋根材
日本は縦長の形で北海道から沖縄まで約2500km離れています。
四季があり比較的温暖湿潤な気候に恵まれていますが、雨量や気温、湿度などは地域によって差があります。
北の地域は寒冷で厳冬を迎え、南の地域は多雨多湿で夏は酷暑です。
日本では地域の気候、風土に合わせた家づくりが行われています。
屋根材や屋根の形にも地域性が出ます。
積雪地方では勾配が急な切妻型の屋根が一般的です。
勾配を緩やかにすると雨漏りの心配があり、雪が積もったときにすがもれしやすくなります。
すがもれとは、屋根に積もった雪が解けて水が屋根の内部に入りこみ、雨漏りのような状態を引き起こすことです。
沿岸地方は風が強くなります。
風で屋根が吹き飛ばされないように軒を低く浅くします。
沿岸部は塩害もあるので、金属板は適していません。
環境に合わせた屋根の素材、形状を選択することは住まいづくりで大切なポイントです。
屋根の素材と特徴 瓦、スレート(天然、人工)、金属板、木板、藁、植物等
屋根には風雨や紫外線などの自然環境から家を守る役割があります。
素材は様々なものが使用され、瓦、スレート、金属板、木板、植物などがあります。
屋根は素材によって特徴があり、防火性や耐寒性、耐久性を持つものやデザイン性に優れた屋根もあります。
外観だけでなく気候・風土に合わせた選択、耐久年数を見込んだランニングコストの試算が大切です。
屋根に用いられる素材の特徴を少しご紹介します。
- 瓦
- 瓦には粘土瓦、いぶし瓦、陶器瓦があります。
粘土瓦は粘土を焼成して作った昔ながらの瓦です。
色は黒や灰色をしています。
愛知県の三州瓦、島根県の石州瓦、兵庫県の淡路瓦が日本の三大瓦として有名です。
いぶし瓦は粘土瓦の表面に灰色の炭素膜をつけたものです。
光沢のある灰色が特徴で、吸水性が少しあります。陶器瓦は現在最も用いられている瓦です。
成形した粘土瓦を高温で焼成し釉薬をかけます。
釉薬をかけることで様々な色合いを楽しめて、吸水性を弱めたり、耐寒性と強度を出すことができます。
釉薬をかけない無釉薬瓦もあります。 - スレート
- 天然スレートは玄昌石などの岩石を薄くそいだものです。
昔はよく使われていましたが、天然石のため非常に高価で、現在ではあまり見かけません。
スレートで一般的なのは人工スレートで、セメントを主原料に粘板岩の粒子を混ぜて固めています。
人工スレートは安価で工期が短く、複雑な形状の屋根を作り出すこともできます。
デメリットは褪色しやすく、耐久年数が瓦より短いことです。
人工スレートは定期的な補修が必要です。 - 金属板
- 金属板は防水性に富み、軽量で加工性が高い素材です。
カラー鉄板、ガルバリウム鋼板、フッ素樹脂塗装鋼板などがあります。
いずれの金属板も急勾配をつけることができ、デザイン性にも優れています。
軽量で割れにくく、耐震性があります。
断熱性や遮音性が低いので、断熱材や遮音材を屋根下に入れる必要があります。 - 木板
- 木板は歴史的建造物の屋根に多く使用されている素材です。
木を年輪に添って割り、薄い板にしたものを屋根にします。
板葺き屋根とも呼ばれ、耐水性と加工性の高いヒノキ、スギ、エノキなどが用いられます。 - 萱、藁などの植物
- 日本だけでなく、世界各地で古来より用いられてきた素材です。
萱や藁を乾燥させたり、煙に燻してから屋根として使用します。
萱や藁を用いた屋根は通気性と断熱性に優れますが、寿命が短く30年前後で取り換えが必要になります。
京都景観条例と屋根材
京都では美しき外観を守り、後世に引き継ぐために建築物の高さ、デザイン、屋外広告物などについて定めた京都景観条例が施工されています。
この条例には全ての地区に共通する共通基準と景観地区別の基準が設けられています。
屋根は材質、形状によって風貌が変わるため、素材やデザイン、色調などの意匠について決まりがあります。
昔ながらの建物は茅葺、板葺、銅葺の屋根が主流でしたが、近年では様々な建築材が流通しています。
日本瓦、銅板は歴史的建造物に用いられてきた建材として、全ての地区の屋根材として利用できます。
共通基準で銅板以外の金属板、その他の屋根材を使用する場合、光沢のないグレー、黒を使用するように定められています。
その他の屋根材とは、日本瓦と金属板以外で地域の風情に合った素材のことです。
平板状になったセメント瓦や粘土瓦、人工スレートなどが用いられます。
自然風景との調和、京都らしい町並みの保全に屋根(形状や素材)は深くかかわっています。
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最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年1月22日