ヘリテージ・アーキテクトとは

「ヘリテージ・アーキテクト」という名前を聞かれたことがあるでしょうか。
「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」という建築講座は、京都工芸繊維大学が開催している講座で、文化遺産の保全と活用を担うために、建築のプロフェッショナルである文化遺産の保存に携わるアーキテクトを育成する目的で開講されています。

ここでは、ヘリテージ・アーキテクトについて紹介します。
具体的な講座内容についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

●ヘリテージ・アーキテクトとは

「ヘリテージ(heritage)」とは伝統や伝承、遺産や継承物をあらわす言葉であり、「アーキテクト(architect)」とは建築家、建築士、設計士を意味しています。
つまりヘリテージ・アーキテクトとは、「歴史的建築物を将来に向けて保存や再生をするための人材」のことを意味しています。

・専門的な知識と経験が求められる業務
過去の建築物を適切に保存して維持するためには、専門的な技術や知識が必要です。
たとえば建物の状態を調査して必要となる修理計画を作成し、実際に修復するなどの作業が必要です。
現代社会においては新しい建築物の建設が進む一方で、古い建物が取り壊されることが多くなっています。
そのため近年では、ヘリテージ・アーキテクトの役割はこれまで以上に重要視されています。
急速な建築技術の進歩に伴って、歴史的な建築物の保全や再生についての専門的な知識と豊富な経験が求められるようになっています。

・ヘリテージ・アーキテクトの役割
ヘリテージ・アーキテクトは、単なる修復作業以外にもさまざまな役割をもちます。
たとえば文化的な価値を保持しながら、現代社会にあわせた形に適した建築物へと再生することです。
これには耐震補強技術や、環境への配慮などさまざまな技術や知識が必要です。
また地域社会やコミュニティとも深く関わることにより、地域社会の発展にも寄与しています。
ヘリテージ・アーキテクトはさまざまな方法を用いて、過去の建築文化を未来に伝えるための保存と再生に努めているのです。

●ヘリテージ・アーキテクトの講座内容

京都工芸繊維大学では、2020年度より建築士資格保持者や文化財マネージャーなどの社会人を対象とした「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を開講されています。
ここではヘリテージ・アーキテクト養成講座の具体的な講座内容である「講義」、「実地見学」、「プロジェクトの参加」について、それぞれの特徴を紹介したいと思います。

・講義
大学内にある教室で、講義形式で専門的な知識を学びます。
いわゆる文化財の修復をテーマとした講義とは違い、近代的な建築物を中心に歴史的な建築物の本質的な価値を守りながら、将来にわたって使い続けるための理念や方法を学習します。

・実地見学
京都市近辺の保存再生事例を学ぶために、大学外で改修現場などを実際に見学します。

・プロジェクトの参加
講座のメインとなる授業です。
受講生が実際にある歴史的な建築物を対象に、改修計画や改修設計をします。
建物の価値にあわせた改修デザインを提案するなど、実習形式で学べます。
提案内容については、京都工芸繊維大学の教員だけではなく、専門家を含めた「講評会」を繰り返して「最終講評会」へと繋げていきます。

プロジェクトでは実際に歴史的な建築物を対象としているため、講義や見学だけでは理解しにくいような改修設計の各種課題について実践的に取り組めます。
2020年の開講以降、すでに10件以上の歴史的建築物を対象に、学生が改修の計画や設計に取り組みました。

近年多様化している文化遺産の保全と活用を担うために「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」では、約60時間のこれらの学びを活かして、建築の実務に特化した高度な能力を有する人材を養成します。

●ヘリテージ・アーキテクトと文化財マネージャーとの違い

ヘリテージ・アーキテクトと文化財マネージャー(ヘリテージ・マネージャー)は、どちらも文化遺産や歴史的建築物を保全する役割を担っています。
しかし、それぞれの職業にはさまざまな違いがあります。
ここではヘリテージ・アーキテクトと文化財マネージャーの代表的な特徴と違いについて紹介します。

<ヘリテージ・アーキテクトの特徴>

ヘリテージ・アーキテクトの代表的な特徴を紹介します。

・専門的な知識が豊富
歴史的な建築物や、地域の建造物などの保全や修復に関する知識が豊富です。
建築物に蓄積された歴史を丁寧に読みとる能力や、保全や修復を目指すうえでのコンセプトの決定、改修や修理などの細かな点についても、高度な知識で対応します。

・修復や設計にも携わる
歴史的な建築物の保全以外にも、建築物の修復や設計に携わることで建築物の保存再生に貢献します。
歴史的価値を考慮しながら、創造的で魅力的な改修を目指します。

・プロジェクトの遂行を目指す
建築家や都市計画に携わる担当者などと連携して、改修計画や改修設計といったプロジェクトの遂行を目指します。

●文化財マネージャー(ヘリテージ・マネージャー)の特徴

・総合的な文化遺産の調査や管理
建築物以外にも遺跡や文化的な慣習についてなど、歴史的な文化遺産についての調査や管理をおこないます。

・登録文化財に関する提言
新たな歴史的文化遺産の新規登録を目指すために、文化財の建築物所有者へ各種提言をおこないます。

・保全や活用の企画提案
文化財を適切に管理するために、所有者や市町村に対して保全や活用に関する企画を提案します。
文化財や建築物について、必要な資料作成を担うこともあります。

・啓蒙活動
一般の人々を対象にして、その地域における歴史や文化などの情報を活用したさまざまな啓蒙活動をおこないます。

●ヘリテージ・アーキテクトと文化財マネージャー(ヘリテージ・マネージャー)の違い

ヘリテージ・アーキテクトは、主に建築的な観点によって歴史的な建造物の設計や修復をおこないます。
しかし、文化財マネージャーは建造物以外にも歴史的な文化遺産を対象にしており、政策や教育、法律といった観点から総合的な管理のために幅広い活動をするという違いがあります。

ヘリテージ・アーキテクトと文化財マネージャー(ヘリテージ・マネージャー)は、それぞれの専門領域で活動しながら、文化遺産の保全と活用に貢献する職種です。
両者がプロジェクト上で連携することにより、豊かな歴史と文化が後世に継承されるようになることでしょう。

●まとめ

「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」とは、京都工芸繊維大学の教育プログラムであり、文化遺産の保存に携わるアーキテクトを養成する講座です。
ヘリテージ・アーキテクトは、歴史的建築物を将来に向けて保存や再生する専門家であり、専門的な技術や知識が求められます。
「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」では講義、見学、プロジェクトを通じて実践的な学びが提供されます。

また「文化財マネージャー(ヘリテージ・マネージャー)」は、歴史的な文化遺産全般の調査や管理、登録文化財の提言、保全や活用の企画提案、啓蒙活動など幅広い活動をおこないます。
ヘリテージ・アーキテクトとは異なり、建築物にとどまらず文化遺産全体の保全と活用を担当します。

ヘリテージ・アーキテクトは歴史的建築物の保全や修復に携わる重要な役割を果たし、文化遺産の保存と再生に寄与しています。
文化財マネージャーもまた、広範な範囲で文化遺産の保護と活用に貢献しています。

現在竹内が文化財マネジャーに続いて、「ヘリテージ・アーキテクト養成講座」を受講中です。
この講座を通じて得た知識と技術を活かして、引き続き建築文化の継承と保全に尽力していきたいと思います。

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最終更新日:2023年11月15日投稿日:2023年11月15日