私たち日本人と深くて長い関係性のある樹といえば、「栗」でしょう。
栗は昔から私たちの暮らしを助けてくれていました。
秋の味覚としての印象が強い栗ですが、実は食用以外にも栗材としてさまざまな用途で活用されていることをご存じでしょうか。
今回は、一般的にはあまり知られていない「栗・栗材」の魅力についてご紹介したいと思います。
栗の産地、食材としての栗
栗は世界中に分布していますが、日本における栗の産地として代表的な場所といえば、茨城県・熊本県・愛媛県です。
さらに栗にはいろいろな品種があります。
とくに京都の丹波地方から収穫される「丹波栗」はブランド栗としても有名です。
このような魅力がある栗は、一体いつから日本で食材として使われていたのでしょうか。
それは、今から約一万年前の縄文時代までさかのぼります。
その頃、炭水化物が豊富に含まれている栗は、人間に欠かせないエネルギー源として主食という形で食されていました。
どんぐりのようにあく抜きの手間が不要な栗は、大切な保存食としての価値も高かったのでしょう。
縄文時代の遺跡を調査した結果、住居周辺には栗の樹が植えられており、肥料としての利用のため栗を栽培していた形跡も確認されています。
また住居跡には、縄文時代の人々にとって栗が幅広い用途に使われていた形跡があります。
栗の樹を丸太にして建てられた建築物や食器としての用途以外にも、炭としての燃料にまで栗が使われていたのです。
日本人が稲作を始める前の主食であった栗は、縄文時代の人々にとって欠かすことのできない存在だったのです。
栗材の特徴と使われ方
栗の樹から作られた栗材は、現在の住まいにおいても欠かせない存在といえます。
栗材は耐久性が高く、耐水性にも優れているため、昔から腐食しやすい場所によく使われてきました。
栗材にはタンニンという天然の防虫成分も豊富に含まれているため、昔から住まいの土台などに用いられています。
また明瞭な年輪と、年数が経つにつれて少しずつ濃くなる褐色の風合いは、落ち着きを感じさせる家具としても人気を集めています。
ほどよい硬さで加工しやすく、洋風の間取りにも調和しやすい栗材はフローリングなどの床材としてもよく使われているのです。
栗材の用途、名栗と言われる仕上げ
栗材の幅広い用途に対応する仕上げ方法として有名なのが「名栗」です。
「名栗」は、日本古来の加工技術であり、ノコギリがなかった時代から使われている製材方法です。
角材や板に、手斧や突きノミを使って独特の加工を施します。
「名栗」仕上げは、でこぼことした手作りの風合いが特徴です。
この方法で仕上げた栗材は、縁側、門、柵など栗材の特徴を活かした場所によく使われています。
とくに代表的な日本の建築様式である「数寄屋建築」には欠かせない存在といえるでしょう。
近年では、「名栗」仕上げを内装材として使うことで住宅の特徴的なデザインとして活用することもあります。
栗材としてよく使われているフローリングに「名栗」仕上げを施すことで、一般的なフローリングとは異なる足触りが心地よく感じられるでしょう。
栗材は、堅木ですから土足で利用する床板に「名栗」仕上げの栗材を使うことで、商業空間や公共施設など多くの人々が訪れる空間にも使用しやすくなるのです。
新しい用途で
栗の樹は、縄文時代から私たち日本人の生活を支えてくれる大切な存在です。
単に食用として利用する以外にも、栗材としてさまざまなところで活用されてきました。
そのような栗材は、現代社会においても欠かせない存在であるといえるでしょう。
栗材には、耐久性・耐水性・防虫性といった特徴があります。
家具や洋風住宅のフローリングとして使われることが一般的ではありますが、栗材を加工した「名栗」はさらにさまざまな場所で利用されています。
クルミはウォールナットですが、栗はチェスナットです。
栗材は、洋家具の材として一般的にも使われていますし、和家具を始め一般的な家具の素材としても使われ始めています。
また、デザイン性と手作りの温かみがある「名栗」は、一般的な住宅以外にも、商業空間や公共施設においても使いやすい素材です。
古くから身近な存在である栗の樹は、栗材という形で私たちの暮らしを土台から支えてくれているのです。
最終更新日:2021年10月26日投稿日:2021年10月26日