日本の樹・松
日本全国に広く分布している松は、庭園や盆栽などにも使用されるとても身近な樹木です。
住宅の建材といえば杉や桧が頭に浮かぶ方もいるのではないでしょうか。
実は、松は日本の建築物にとってとても重要な役割を果たしているのです。
それでは早速、松の特徴について詳しく見ていきましょう。
日本地産の松
日本の松はどのようなものなのでしょうか。
松は、公園や街路樹などに植えられていることもあり、小さな頃に松ぼっくりを拾って楽しんだ思い出がある方もいることでしょう。
庭園などの和風文化とも密接に関わっており、盆栽が趣味の方は松を愛でていることもあります。
食に興味がある方は、季節の味覚としても有名な松茸のイメージがあるかもしれません。
長寿を願い門松を飾るのも、日本ならではの風習といえるでしょう。
このように、日本の松は色々な目的として様々な場面で利用されているとても身近な素材なのです。
松に慣れ親しんでいると、昔からの建築物に身近な松を使っていると聞いても当たり前と感じるかもしれません。
次の項目では、建築に関わる松についてご紹介していきましょう。
松材の特徴と使われ方
松は、建築に関しても幅広い目的で利用されています。
海外産と国内産の松にはそれぞれ異なる特徴があるので詳しく見ていきましょう。
<海外産の松とは>
海外産の松は、建築業界ではパイン材という呼び方で利用されています。
イエローパインやホワイトパインなど、見た目の色合いから特徴的な名称で呼ばれることの多い素材です。
家具として加工されることも多いので、想像しやすいかもしれません。
よくしなるので加工がしやすく、DIYなどで馴染みがある方もいるのではないでしょうか。
パイン材の場合は、表面が傷つきやすく、湿度や乾燥に左右されやすい特徴があります。
<日本の松とは>
日本の松はパイン材とは別に「地松」という言葉で呼ばれています。
地元でとれた松という意味ですが、パイン材とは異なった特徴を持っています。
ここからは、松材として使用されることの多い日本の「アカマツ」と「クロマツ」についてそれぞれの特徴と使われ方をご紹介します。
アカマツ
植生は、山の中腹から山頂にかけて、あまり土質の良くないところ(岩盤等に)に生えています。
比較的硬くて耐久性なアカマツは、強さが必要な場所によく利用される素材です。
敷居や床材などに使われることが多く、艶のある見た目をしているので、重厚感を演出したい時にも用いられます。
クロマツ
一般的に防風林として植えられているのがクロマツです。
防風に耐える為に、材が曲りねじれたりして、脂分が非常に多く肥松(濃赤味の杢がきれいな材)とよばれる風合いを出すものもあります。
床材や化粧材としてよく使用されるクロマツは、年数を重ねるごとに自然な赤みが出てくることが特徴です。
松材は良材
日本に古くからある松材は、建材の中でも良い素材です。
天然の松は、捻れながら成長するという特徴があるために、柱などまっすぐに育つ特徴が必要な場所にはあまり使われません。
松材の特徴を上手く活用した建築をする時には材の持つ粘り強さのある耐久性を考慮して、横架材として利用すると良いでしょう。
歴史的な価値のある古民家では、松の特徴を活用して骨組みが組まれていることも数多くあります。
曲がった松丸太を釿掛け(ちょうなが-け)したり、両面を製材して太鼓梁としたり、化粧材としてとても魅力的なごろんぼとして民家や町家の勾配天井の大空間のシンボルとなっています。
松から採取できるマツヤニには、防腐素材としての役割も期待できるため長寿命の住宅を作りたい時にも有用です。
ただし、素肌が直に触れてしまう場所に使用してしまうと肌がかぶれてしまうことがあります。
そのため、梁や桁などの構造に活用されることが多い素材です。
松材の使い方
日本では昔から、「ごろんぼ」と呼ばれる松の丸太を梁として利用する場面が多く見られていました。
天然の松は、曲がりながら成長するので曲がったままの姿で高い耐久性を持つという特徴があります。
これを最大限に利用するために梁に存在感のある松材を利用することが多かったのです。
数十年前には当たり前だった「ごろんぼ」も地松(虫害被害による)の減少によってその数を減らしてきました。
昔ながらの方法で作られた地産地消の住宅では当たり前に使われてきた素材ですが、
プレカットで作られる現在の建物の工法は、丸太や曲がった材が加工できないので、一般的には角材として製材・加工して造られたものを使用しています。
これらが、その自然に近い材(丸太)を家造りから遠ざけてしまっているのかもしれません。
技術的にも、職人の手からも松材を使う機会を減らしていると思います。
町家や民家のリノベーションを行う時の楽しみのひとつに、天井を解体した際に現れる立派なごろんぼ(松丸太梁)を見れることが挙げられますが、これも建物の持つ大きな魅力になります。
その建物の歴史や価値やを再認識することが、世代を超えて共感することができます。
施工者としては、古い建物のリノベーションをさせていただく(建物の古さの価値が再発見ができる)醍醐味でもあります。
最終更新日:2021年2月18日投稿日:2021年2月10日