先日東京の出張の折、かねてから一度訪れてみたいと思っていた東京都小金井市にある「江戸東京たてもの園」に行ってきました。
ここには、東京(江戸)で建てられて使用されていたさまざまな伝統的な建築物が移築をされていて、当時の人々の暮らしや生活様式、建築技術などを観ることができます。
●日本の古建築
古建築は、日本の歴史上・往時の生活や地域の風土や固有の文化を感じることのできる場所です。
全国各地には、こうした建築を移築して見学できる場所がいくつかあります。
これらの野外博物館では、古建築を移設・保管・展示するなどの方法によって、時代を超えて私たちに当時の歴史や文化を伝えてくれます。
・北海道の「開拓の村」
1983年に開村した北海道札幌市にある「開拓の村」は、明治から昭和初期にかけて建築された北海道各地の建造物が移築・復元・再現されています。
村内は4つのグループに分かれており、ニシン漁で栄えた浜の賑わいが感じられる「漁村郡」、北海道独特の建造物や移住者の建築様式が垣間見られる「農村郡」、豊かな森林資源と造材・薪炭製造関連の施設が再現されている「山村郡」、官庁街や商店街、住宅街、職人街などから構成されている「市街地郡」などグループごとに見どころがあります。
・宮城県の「みちのく杜の湖畔公園」
宮城県柴田郡にある「みちのく杜の湖畔公園」には、東北6県の特徴ある古民家が移築されたふるさと村のエリアがあります。
たとえば「鳴瀬川河畔の家」では、養蚕をしていた中二階式養蚕家屋が特徴的です。
また「南会津の家」では除雪の手間を減らす工夫が施された馬屋中門造りが目を引くことでしょう。
「遠野の家」は、馬の生産と住まいが密接に繋がった南部曲り屋で最大7頭の飼育が可能でした。
一見するとどれも似たような古い茅葺きの民家ですが、それぞれに当時の文化や暮らしの知恵が詰まっているのです。
・愛知県の「博物館明治村」
愛知県犬山市にある「博物館明治村」は、明治建築を保存展示する野外博物館として昭和40年に開村されました。
取り壊される予定だった建築物を移築・復原しており、国の重要文化財や愛知県の有形文化財として指定・登録されています。
先代の帝国ホテル(フランク・ロイド・ライト設計)の玄関ファサード・ロビー部分が移築・展示されています。
ここでは、ただ建物だけを公開するのではなく、建物に関連する歴史的な資料の展示も行われています。
・東京都の「江戸東京たてもの園」
1993年に東京都江戸東京博物館の分館として開設された「江戸東京たてもの園」は、東京にある歴史的建造物を移築して復元・保存・展示しています。
都内に建築されていた江戸時代から昭和までの幅広い建築物を展示しており、内部には生活民族資料も展示しています。
さらには旧武蔵野郷土館から引き継いだ資料や復元建造物なども展示しており、定期的に特別展が開催されています。
私たちはこのような博物館を利用することで、歴史的な建築物を知るとともに、当時の生活や歴史的な背景にまで思いをはせることができます。
参考URL
・「博物館明治村 明治村について」 https://www.meijimura.com/about/
・「江戸東京たてもの園」 https://www.tatemonoen.jp/
・「江戸東京たてもの園 全国文化財集落施設協議会」 https://www.tatemonoen.jp/shuraku.php
・「北海道開拓の村」 https://www.kaitaku.or.jp/
・「みちのく杜の湖畔公園」 https://michinoku-park.info/kominka/
●小金井市にある江戸たてもの園の建築群
「江戸東京たてもの園」には、さまざまな見どころがあります。
たとえば数多くの建築群です。
そこでは、古民家、商店建築、個人邸宅、洋館、銭湯、旅籠、交番等、和館・洋館の30棟の建物が移築され見学できます。
・古民家(農家)
古民家は伝統的な木造家屋です。
旧武蔵野郷土館に収集されていたような農家型古民家(天明家)と綱島家が移築されています。
茅葺き屋根や土壁、広い土間などが特徴的で、当時の農村生活の様子がうかがえます。
・商店建築
商店建築は、主に昭和初期の商店街で見られた建物です。
店舗部分と居住部分が一体となっている構造で、当時の商業活動や町の賑わいを感じられます。
出桁造りの建物が特徴的な小寺醤油店や、看板建築の武居三省堂などがあります。
後、写真館、和傘屋、酒屋、居酒屋、荒物屋、乾物屋等の往時の庶民の生活が垣間見れる建物が数多く通りに建っています。
・個人邸宅
個人邸宅は裕福な家庭の住まいとしての建物です。
大正から昭和初期にかけてのものが多く、豪華な装飾や広い庭園が特徴的です。
東京都指定有形文化財の小出邸(建築家・堀口捨巳設計)や三井八郎右衛門邸や、吟味された部材から造られた西川家別邸などがあります。
後、当時の田園都市型住宅の走りの田園調布の家があります。
・洋館
洋館は明治以降の西洋文化の影響を受けており、異国情緒が漂う雰囲気の建物です。
洋風のデザインや建築技術を取り入れており、モダンで洗練された雰囲気を持っています。
ドイツ人の建築家により平屋建ての洋館から3階建てに増築されたデ・ラランデ邸があります。
・銭湯
銭湯はかつての公衆浴場で、共同体の交流の場としての役割を持っていました。
伝統的な浴場の構造や装飾が再現されており、昭和の庶民文化を感じることができます。
大型の唐破風や、七福神の彫刻、折上格天井などの贅をつくした造りの子宝湯があります。
・旅籠
旅籠は、江戸時代の宿場町に見られる宿泊施設で、旅行者の休息の場としての機能を果たしていました。
簡素ながらも温かみのある建物で、旅人たちの憩いの場として愛されていました。
青梅街道沿いにあった旅館として1950年頃の室内を復元した万徳旅館があります。
参考URL
・「江戸東京たてもの園 復元建造物の紹介」 https://www.tatemonoen.jp/restore/intro/
●前川國男自邸
ここには、建築を業としている人達の聖地と言われている前川國男邸(東京都指定有形文化財)が移築されています。
前川國男は、日本の近代建築に大きな影響を与えた建築家であり、彼の自邸はその代表作の一つです。
1941年に太平洋戦争が勃発後、1942年に建てられた住宅は戦時体制下に建築資材の入手が難しい時期に竣工されました。
妻入りの切妻の大屋根と大きな窓、縦板張りの壁、正面のファサードには中央にシンボリックな丸柱が建てられています。
伝統的な和風のスタイルではありますが、大胆に配置された幾何学的な格子窓や灯り障子などは、まさにモダニズムの旗手と呼ばれている前川國男らしいモダニズムの造形です。
室内に一歩足を踏み入れると、最大の見どころであるリビングの豊かな空間を実感できることでしょう。
物資が不足していたとは思えないほど広々とした空間の二層吹き抜けのリビングが迎えてくれます。
また南側の壁は丸ごと窓になっているため、自然の光が室内に入り込みやすい開放感のある明るい空間に仕上がっています。
ガラス以外の部分はすべて木材で造られており、昭和初期の建築でありながらもモダンなデザインとなっています。
高窓の下部にある障子、壁に配された地袋など、モダニズムの中にも和の要素が見られるのも特徴的です。
この自邸はモダンなデザインと機能性を兼ね備えており、日本特有の木造モダニズム建築として大変貴重なものです。
室内にあるインテリアは、「江戸たてもの園」がオリジナルをもとにして復元しました。
細部までこだわりが感じられる自邸には、彼の美意識と当時の技術の高さがうかがえます。
参考URL
・「江戸東京たてもの園 前川國男邸」 https://www.tatemonoen.jp/restore/intro/west.php#w06
・「キナリノ 見学できちゃう!木造モダニズムの傑作。建築家「前川國男」の自邸」 https://kinarino.jp/cat8/15734
これらの建築物が次世代にも継承されていくことを願いつつ、「江戸東京たてもの園」に足を運ばれてその魅力を堪能してみられてはいかがでしょうか。