建築を学び深く理解するためには、さまざまな方法があります。
たとえば実際の建築物に使用した図面やCG、建築模型などです。
シミュレーションだけではなく実際の建築に使用されたものを学びに活用することで、これまでとは違った視点から建築の魅力を実感しやすくなります。
この中でもとくに建築模型は、建築物の意匠と構造について視覚的に理解するために大切なアイテムと言えるでしょう。
ここでは建築模型などを使った建築を表現する方法と、東京都品川区の天王洲アイル周辺にある建築模型を中心に展示している「WHAT MUSEUM」の魅力について紹介します。
●建築を表現する
建築を表現する方法はさまざまです。
代表的な方法である「建築図面」、「CG」、「建築模型」についてそれぞれ紹介します。
・建築図面
建築図面は建物の設計図となるもので、施工者や設計者、建築主にどのようなものを建築するのかという共通認識を与えてくれます。
建築主の希望を図面化した「基本設計図」や、専門的な情報が記載されている「実施設計図」、建築担当者が作成する「施工図」などの種類があります。
・CG
CGとは「Computer Graphics(コンピュータ・グラフィックス)」のことです。
建築にCGを使用すると、建築物の完成予定図をまるで写真のようなリアルさで表現できます。
色彩や色合い、形なども具体的に表現できるため、空間全体を立体的にイメージをしやすくなり、外観の意匠や内部空間について視覚的に把握しやすくなります。
今、ウォークインスルーといった歩いて見られる視点で見ることのできるものもあります。
・建築模型
建築模型は実際の建築物を縮小化したものです。
建築模型を活用することで、建築の規模や構造、使われている素材、又設備器具、家具など配置した空間等を直感的に把握することができます。
建築模型は目的に合わせて素材や色を使い分けるため、作り方に決まった方法があるわけではありません。
一般的な素材としてはスチレンのボードやペーパーがよく用いられており、1/50や1/100などのさまざまなサイズがあります。
建築模型の種類には、依頼者に見せるための「プレゼンテーション模型」や図面だけではわかりにくい部分を確認するための「スタディ模型」、建築の骨組みである構造を抜き出した「構造模型」などがあります。
●建築倉庫 WHAT MUSEUM
東京品川の天王洲アイル駅から徒歩5分ほどに建築模型を専門に展示する「WHAT MUSEUM」があります。
2020年12月にオープンしたこの美術館は、寺田倉庫株式会社が運営しており、「WHAT MUSEUM」内の「建築倉庫」には多数の建築模型が展示されています。
ここでは「WHAT MUSEUM」と「建築倉庫」の魅力について紹介します。
・建築模型専用の保管場所
建築模型の作成している建築家や設計事務所などの立場で考えてみると、「自宅スペースや事務所が建築模型で占領されている」、「苦労して作成した模型を捨てられない」などのお悩みがあるのではないでしょうか。
建築模型は、わが国の建築文化を後世へと伝える大切な役割があります。
しかしこれまでは国内の保管スペースの不足などにより、廃棄せざるを得ない状況や、海外のミュージアムに寄贈されるなどのケースがありました。
「建築倉庫」は徹底した温度管理とセキュリティにより、保管環境の整った空間で建築模型を保管することができるようになったのです。
・建築模型の魅力を伝える展示
「建築倉庫」は保管だけではなくアートの美術館としての役割も担っています。
「倉庫を開放して、普段見られないアートを覗き見する」というコンセプトにより、30以上の建築家や設計事務所から収集した著名な建築家の作品を展示しています。
600点以上の模型が保管環境の整った空間でそのまま展示物として使用されており、訪れる人々に建築(模型)の魅力、を伝えています。
・オンラインで作品を公開
「建築倉庫」では実際の美術館における企画・展示だけではなく、オンラインで作品を公開する機会もあります。
たとえば「制作した模型のデータ化が間に合っていない」、「世の中には出ていない模型を発表する場所がない」などのお悩みがある方は、全世界に向けて表現をアピールすることもできるのです。
・建築模型の販売
多くの時間をかけて作成した模型を、企画・展示するだけではなく、販売することも可能です。
建築模型の価値を理解している会員を顧客として、販売価格の80%を作家収入にできるため、作品のアピールと合わせて収入源としても役立ちます。
「WHAT MUSEUM」内の「建築倉庫」には実際に美術館まで足を運んで作品を鑑賞する以外にも、建築模型を展示したい方にとって多くの魅力があります。
人々に建築模型の魅力を伝えたい方や、建築模型に興味がある方は、ぜひ足を運んでみられてはいかがでしょうか。
●特別展
「WHAT MUSEUM」では、2024年4月26日から8月25日まで「感覚する構造 法隆寺から宇宙まで」という特別展が開催されています。
建築の骨組みに関わる「構造デザイン」に注目した展覧会で、全国各地から集められた100点以上の構造模型を観賞できます。
・特別展の概要
現在開催されている特別展は、全国各地から集めた貴重な構造模型を集めた「WHAT MUSEUM」において最大規模の建築展です。
世界に誇る建築家の多い日本ですが、建築家の仕事を支える構造家の存在はあまり知られていません。
構造家とは、専門性の高い構造デザインをする専門家のことです。
特別展では構造家による建築の「骨組み」としての模型を見学できるため、構造の仕組みを理解しやすい環境になっています。
・特別展の見どころ
特別展の見どころはなんといっても法隆寺五重塔の1/10サイズ(約3.6m)の巨大模型や松本城の天守木組模型などのスケールの大きな模型です。
日本の伝統的な木造建築にフォーカスしており、これからの木造建築の可能性を感じられます。
さらに初公開の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と佐藤淳氏らが開発した「月面構造物」の最新実寸大模型も見どころの一つです。
木造建築の可能性や構造デザインを応用した宇宙開発など、他領域との関わりが垣間見える特別展で、近年話題のサステナブルな木造建築物の可能性を探究してみましょう。
・注目すべき4つのテーマ
展覧会では「伝統建築と木造の未来」、「次世代を担う構造家たち」、「構造デザインの展開」、「宇宙空間へ」という4つのテーマに分けて構成されています。
ここではそれぞれのテーマごとの見どころについて紹介します。
1.伝統建築と木造の未来
伝統的なものから現代的なものまで木造建築の特質や可能性について学べます。
歴史的な木造建築として法隆寺五重塔や松本城、東大寺大仏殿、栄螺堂が展示されています。
また現代の木造建築として葉祥栄や松井源吾、内藤廣と渡辺邦夫などの建築家と構造家の協同による構造模型を展示しています。
海の博物館、代々木競技場(丹下健三)など魅力的な構造を持つ模型も展示されています。
2.次世代を担う構造家たち
日本現代建築の独自性の源泉ともいえる建築家と構造家にフォーカスします。
30名以上の構造化のインタビュー映像により、構造家の思想や哲学に迫ります。
3.構造デザインの展開
構造デザインの知見を活用したファッションなどの異なる領域との取り組みが展示されています。
4.宇宙空間へ
地球上から宇宙空間へと構造デザインを展開するための取り組みを紹介します。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と佐藤淳氏らが開発した「月面構造物」の原寸大模型が展示されています。
建築に興味がある方は「WHAT MUSEUM」にある「建築倉庫」をぜひ訪れてみましょう。
建築模型を通じて建築の理念やデザインの奥深さを感じることができます。
建築家の思考過程や創造性を感じてみたい方は、ぜひ特別展も観賞してみてください。
特別展では専門性の高い構造デザインの仕組みが分かりやすく紹介されており、開催期間中は関連書籍の販売やトークイベント、ワークショップなども開催されています。
建築模型を通じて、建築家の意図やデザインのコンセプトを具体的に知ることができるため、きっと建築に対する理解が深まることでしょう。
是非、ご覧になってください。