住まいをつくるための工法には、さまざまな工法があります。
とくに代表的なものといえば、木造軸組工法(ポスト&ビーム)です。
柱と梁を縦と横に組み合わせて住まいをつくるという基本的な木造建築方法のため、日本において古くから使われてきました。
木造軸組工法は、過去から現在まで年月を重ねながら日本の風土に合わせて発展し、古民家から神社仏閣まで幅広い建築物に採用されている方法です。
木造軸組工法の技術は、工場でのプレカット工法と大工による手刻み加工に分類できます。
ここではプレカット工法と大工手刻みについての違いや特徴を紹介します。
●プレカット工法とは
木造建築において、構造となる木材を事前に工場で加工してから現場で組み立てる方法のことです。
工場の大規模化やマンパワーの不足などの影響により、近年では木造軸組工法のうち9割以上がプレカット工法で造られています。
柱や梁、床材や壁材などの接合部分をあらかじめ加工しておくことで、現場での加工がほぼ不要となるため、効率的な作業が可能です。
●大工手刻みとは
大工職人の基本的な作業といえば「墨付け」「刻み」とです。
「墨付け」は加工するためにその部分に印(墨で)をつける作業、「刻み」は木材をノミなどの道具を使って加工すること、をいいます。
一つひとつが異なる木材の特徴を職人が目利きしてから、特徴に合わせた使い方を選別し、手作業で加工することを「大工手刻み」と呼びます。
大工手刻みは昔ながらの木造建築でよく用いられている方法です。
柱や土台となる木材に、大工職人が手作業で墨付けや刻みといった加工をしてから組み立てて住まいを造ります。
すべてが手作業のため、大工職人としての豊富な経験や正確な技術が必要です。
●プレカット工法と大工手刻みを比較
以下ではプレカット工法と大工手刻みの違いについて、それぞれのメリットとデメリットを比較しながら紹介します。
<プレカット工法のメリット>
プレカット工法の代表的なメリットは「工期の短縮化」、「コストダウン」、「安定した品質」、「マンパワーに依存しない」ことです。
それぞれについて詳しく紹介します。
・工期の短縮化
あらかじめ加工された木材を現場で組み立てるという方法のため、効率のよい作業が可能となり、工期の短縮につながります。
・コストダウンができる
現場で加工することが少なくなるため、現場で木材を加工することによる廃材が出にくく、廃材に関する費用が発生しにくくなります。
さらに工期の短縮などの影響によってコストダウンが期待できます。
・一定の質を保てる
工場で機械による加工がされているため、コンピュータ制御によって安定した一定の質が保てます。
・マンパワーを減らせる
現場で加工する頻度を減らせるため、工期が短縮して労働日数も少なくなります。
マンパワーに依存しない方法のため、大工職人の負担を軽減できます。
<プレカット工法のデメリット>
プレカット工法のデメリットは「複雑な加工に不向き」、「仕口の強度が低い」、「複雑な構造に対応しにくいー最終大工の手が要る」、「職人の技術を継承できない」ことにあります。
それぞれについて詳しく紹介します。
・複雑な加工には向いていない
一般的にプレカット工法で対応できるものは単純なパターンが多いため、複雑な加工には向いていません。
複雑な加工にも対応できるようにと、機械の対応範囲は年々広がってきてはいるものの、大工手刻みのように微調整できるような加工はまだまだ難しいといえるでしょう。
・精度が低い
プレカット工法では現場で再加工が必要とならないように、ある程度のゆとりをもたせた加工がされています。
そのため、大工手刻みと比べると構造的に強度が低く、その分金物で補強して対応しています。
・木材の個性を活かせない
機械加工のため一つひとつの素材に合わせた加工は難しく、木目などの木材の個性を活かした加工には向いていません。
(もちろん、材を十分に選んで適材適所に使うように事前に選別する工程を経るとこの限りでは、有りません)
・大工職人の技術を継承できない
プレカット工法は、大工職人の労働時間を軽減でき、職人の経験値による技術差を考慮せずに効率的な作業が可能になる方法です。
しかし大工職人の技術を継承できないという大きな問題があります。
若い大工職人が、墨付け手刻みの加工の経験をしていないというところもあります。
<大工手刻みのメリット>
伝統的な工法である大工手刻みには、「設計の自由度が高い」、「仕口の精度が高い」、「木材の個性を活かせる」、「職人の技術を継承できる」ことです。
それぞれについて詳しく紹介します。
・設計の自由度が高い
一つひとつの素材と向き合って手作業で加工します。
機械加工では対応が難しいような複雑な加工にも対応できるため、自由度の高い設計が可能です。
・精度が高い
一つずつの素材を手作業で加工するため、加工の精度を高められます。
金物を使わない設計にも対応できます。
柱や梁などの強度を高めやすくなり、強い構造物が作れます。
・木材の個性を活かせる
木材にはさまざまな個性があります。
大工手刻ではすべての加工を手作業でおこなうため、木材がもつ個性や特性を活かした加工が可能です。
木目や木組みなどの木材がもつ魅力を高められる方法です。
・大工職人の技術を継承できる
熟練の職人が新人に向けて技術や知識を継承するためには、その腕をふるうための現場が必要です。
大工手刻み工法の現場は、伝統的な大工職人の技術や知識を次世代へ伝えるためになくてはならない場所といえるでしょう。
<大工手刻みのデメリット>
大工手刻みのデメリットは「工期が長期化しやすい」、「コストが高い」、「加工技術が、大工の技量に左右される」、「マンパワーに依存しやすい」ことです。
それぞれについて詳しく紹介します。
・工期の長期化
一つずつ手作業で加工している大工手刻みは、工場で加工するプレカット工法に比べるとどうしても加工に時間がかかりやすく、工期が長くなりがちです。
・コストが高くなる
現場で加工する大工手刻みは、プレカット工法よりも廃材が出やすく、廃材の処理費用がかかってしまいます。
また工期が長くなるため、それだけプレカット工法よりもコストが高くなってしまいます。
・質にバラツキがでやすい
大工職人の手仕事で加工しているため、大工職人ごとの技術力に左右されやすく、品質にバラツキがでやすいといえるでしょう。
・マンパワーに依存しやすい
手仕事で加工しているため大工職人の負担が大きく、マンパワーに依存しやすい方法です。
プレカット工法と大工手刻みについて、それぞれのメリットとデメリットを紹介しました。
どちらも一長一短がある方法のため、造りたい住まいに合わせた方法を選ぶとよいでしょう。
●大工手刻みを必要とする仕事
近年の木造軸組工法はプレカット工法が主流です。
しかし大工手刻みでしかできない仕事もあります。
伝統的な技術を継承している大工職人は、用途別に木材を選別して細やかな調整をする技術に優れているためです。
たとえば伝統的な木組みである「渡りアゴ工法」や古民家に使われる「石場建て工法」、武家屋敷に使われる「書院造り」などは大工手刻みでしか対応できない方法です。
また梁を見せるようなデザインの住まいを求めているときや、構造柱に丸太を用いるときにも大工手刻みが欠かせません。
とくに木の個性を活かしたようなデザインや、個性的な住まいを求めているときには、職人としての技術が発揮できる大工手刻み工法による住まいづくりが必要です。
京都・嵯峨にある竹内工務店では、先人から知恵と技術を受け継いだ職人による地域に根ざした住まいづくりを心がけています。
古民家を再生して住みやすくするためのリノベーションや、周囲の環境に溶けこむようなデザイン、京の町並みと調和する住まいなどにこだわった木の家づくりを目指しています。
大工手刻みの仕事について興味があるときには、いつでもご相談ください。
お問い合わせ