住宅を選ぶときには、外観や内装といった見た目に惹かれる方も多いのではないでしょうか。
しかし住宅には、見た目だけでは気がつきにくい「病気」が隠れている可能性もあります。
この住宅の「病気」を放置していると、将来的には大きな修繕が必要になってしまうかもしれません。
とくに長く暮らせるような安心できる住まいを見つけるためには、住宅の専門家である「住宅医・ホームドクター」の力が必要です。
住まいの客観的な診断をするために住宅の検査を専門家や住宅医がすることを「ホームインスペクション」と呼びます。
今回は住宅医とインスペクションについて、言葉の意味や、なぜ住まいにとって必要なのかという理由について紹介します。
●インスペクションの言葉と意味
住宅医が住宅の健康をチェックする調査のことを、日本語では「検査」や「調査」、「視察」、「査察」などと呼びます。
とくに近年では不動産関係でこれらの意味をもつ「インスペクション」という言葉に注目が集まってきています。
・近年注目を集めるホームインスペクション
もともと欧米では、不動産売買でインスペクションが当たり前におこなわれていました。
日本では以前より建物の検査や調査はおこなわれていましたが、インスペクションという考え方はありませんでした。
近年注目を集めている理由は、平成28年におこなわれた宅建業法の一部改正がきっかけです。
平成30年に施行されるこの改正宅建業法では、既存住宅のインスペクションに関する項目が追加されました。
不動産関係とそれ以外を区別するために、このようなインスペクションを「ホームインスペクション」と呼ぶこともあります。
・宅建業法で追加されたインスペクション
宅建業法において「媒介契約終結時」、「重要事項説明時」、「売買契約終結時」には買主への説明や書面交付などが義務付けられました。
住宅医や、ホームインスペクター「既存住宅状況調査技術者」の資格をもつ建築士がインスペクションをすることにより、第三者の視点で客観性をもった診断や説明が可能になるのです。
住宅医のインスペクションにより、少子高齢化が進む日本において、増加傾向にある空き家の問題にアプローチしやすくなります。
日本では不人気となりがちな中古物件ですが、住宅医のインスペクションが義務化されたことにより、中古物件の質を向上することが期待されています。
●人の体と住まいの診断調査
人の健康を診断して病気を治療するのは医師ですが、住宅にも同じように「病気」があります。
住宅の「病気」とは、住宅の構造体の劣化や、物が壊れたり動かなくなったりする不具合などのことです。
ここでは住宅医による住まいの調査について紹介します。
・住宅医の診断調査とは
住宅医とは住宅の基礎から屋根や外壁、部屋の内装、電気やガス、水道などの設備まで住まい全体を詳しく調査します。
ひび割れなどの傷や、設備に劣化や故障が起きていないかなどを確認します。
また安全性や機能が保たれているかなどトラブルの起こる可能性がある部分について、専門的な視点を細かく調査して診断します。
住宅医とは、まるで住宅全体の健康状態を総合的に判断して住宅の病気を発見する医師のような役割をもつ業種です。
・人間の健康と住まいの安全
近年は住宅の「病気」を診断する専門家である「住宅医」が注目されています。
住宅医は、住宅の劣化状況を詳しく調べて住宅の「病気」がどの部分にどのぐらい発生しているのかを診断し、必要な対策をまるで治療方法のように提案してくれる建築の専門家です。
住宅医に住宅を調査してもらうと住宅の「病気」を早期に発見でき、適切な対策ができるようになります。
住宅の状態を適切に調査して管理することは、人間でいうところの「人間ドック」や「健康診断」のようなものです。
人間にとって早期発見・早期治療が大切なように、住まいにとっても悪い部分を早く見つけ、不具合を早期に修繕するのは非常に大切なことです。
人間の場合は治療をせずに放置していると大病につながる恐れがあります。
住まいの場合も同様に、調査をせずに放置していると少しずつ悪化していきます。
最終的には大規模な修理が必要になったり、住み続けることが難しくなったりするなど大きなトラブルにつながる可能性があるのです。
●住宅医という建築の専門分野
住宅医はすでに建てられた住宅の調査や診断、維持や改修などについて、優れた技術や知識がある建築士の実務者として、一般社団法人住宅医協会が認定している資格です。
ここではさらに住宅医がもつ職能について紹介します。
・住宅医の厳密な調査
住宅医は、住宅の6分野(耐久性、耐震性、断熱性、温熱性、バリアフリー性、省エネ性、火災の安全性)について調査をします。
現在の住宅がどのような状態にあるかを厳密に調査後、報告書にまとめてクライアントへ報告します。
6分野では、床下から屋根裏まで住宅のすべてをしっかりと調査します。
たとえば基礎や構造剤、断熱材などの劣化状況や配水管や電気設備などの調査、段差や手すりの配置状況などです。
住まいとしてどのぐらいの性能があるのかを調査する姿は、まるで医師が人間ドックで健康状態をすみずみまで調べるかのようです。
・診断結果にもとづいた改修計画の提案
私たちが健康診断を受けたときに病気が見つかったとすれば、それぞれの病気について治療を開始することでしょう。
住宅医もそれと同様に、調査した住宅に問題を見つけたときには、それぞれの部分に合わせた改修方法を立案します。
クライアント様の状況は住まいごとに異なるため、ご要望やご予算などに合わせ提案します。
日本の地方では、人口減少による空き家の増加が問題になっています。
日本政府や地方自治体は空き家問題に対策するため、空き家の再利用を推進しています。
このような空き家の改修計画を主導するためにも、住宅医は建築士にとって必要不可欠なスキルだといえるのです。
●調査にもとづく診断と対応する工事を
住宅医によるインスペクションで、住宅の劣化などの「病気」があったら、次はその診断結果にもとづいて必要な治療をする段階です。
住宅医からは、病気の部分を見直すためにどのような工事が必要か、アドバイスが提供されます。
たとえば外壁にひび割れや雨漏りがあるときには、壁の内部にまで水が浸透してシロアリやカビが発生したりするかもしれません。
雨漏りがひどい外壁の場合は、張替え工事が必要になるかもしれません。
また電気設備等が古くて劣化しているなどの問題がある場合には、電気設備の取り替え工事も必要です。
住宅医の専門的なスキルによって適切な工事がおこなわれると、住まいは品質と安全性を維持しやすくなります。
劣化した部分を放置しておくと、どうしても住宅の品質は低下し続けてしまいます。
そうなると、住人の健康や安全を守ることが難しくなってしまうのです。
また将来住まいを売りたいと考えている方の場合は、住宅医を活用しないと住まいに問題がある部分を発見できなくなります。
将来的に早く売りたいと考えても、住宅医の診断を受けていないときには、大規模な修繕が必要になるかもしれません。
適切な住まいの価値がわからないままで売買してしまうといったトラブルが起こる可能性も考えられます。
住宅医のインスペクションは、住まいの価値を守って住人の安全や暮らしを守るための業務です。
ぜひ積極的に住宅医を活用して、大切な住まいを適切に管理していきましょう。
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