地産地消の建築素材にはどのようなものがあるか(石、木、瓦等)
人が暮らしを営む上で住まいは大切な空間です。
最古の家づくりでは石、木、竹、土、草などの自然素材が建築材として用いられました。
海外との交流、交易が始まると建築素材は形を変えて進化してきましたが、身近にありふれた自然素材を加工することで建築用材の役割を担いました。
建築材が大きな変化を遂げたのは明治維新以降です。
西洋文化の導入により、新しい建築様式と建築用材が取り入れられるようになりました。
そのことにより鉄筋コンクリートやガラス、レンガなどが建築に使われます。
現在では安くて便利な建材が普及し、集成材や合板、繊維板、接着剤、塗料などが使用されています。
これらの建築材は均質で安く大量生産できることから需要が高まり、自然素材から化学建材へとシフトしました。
ところが、人工的な新素材は環境面や健康に悪影響を及ぼすことが分かってきました。
最近では地産地消の建材を用いた建築が見直されています。
日本の建築で特に欠かせない素材といえば木材です。
国内には豊富な森林資源がありますが、現在も建築木材の大半は安価な輸入木材や新素材に頼っています。
木材の主な輸出国はアメリカ、カナダ、インドネシアなどです。
日本にも良質な木材の産地があります。
青森県のヒバ、秋田県の杉、木曽のヒノキは日本の三大美林として有名です。
国産の木材は運用コストが高くつくことから敬遠されてきましたが、地産地消での活用が注目されています。
「地産地消」という言葉は食べ物の話題でよく挙がります。
地元で採れた新鮮な食材を美味しく食べることです。
木材も同様に地域で伐採したものを建築に活用することができたら画期的です。
自然素材を用いた家づくりは健康的で環境に優しくクリーンです。
木材は廃材が出たとしても環境に悪影響が出にくい素材です。
建築後に取り壊しても木材は再利用、リサイクルが可能です。
地産地消をすることで運搬コストを抑えることができ、林業を活性化できる点もメリットです。
屋根に使われている瓦も地産地消で生産できる建材の一つです。。
地産地消の建築素材を用いることは、環境に優しく、地域産業の活性化や伝統文化の継承にも貢献します。
地産の建材利用促進事業を行っている地域もあります。
古瓦と窯元
瓦は地域性が表れる建築素材です。
風土に根付いた和瓦が持つ独特の外観は美しく、昔は日本各地で見ることができました。
瓦の歴史は古代オリエント時代に遡り、日本に流入したのは6世紀頃のことです。
中国の仏教信仰とともに伝わってきました。
当時の瓦は寺院やお寺などの一部の建物にしか使用されず、高級品として扱われました。
奈良・平安時代になると、地方でも国家権力を持つ建物に瓦が使われるようになり、各地に瓦をつくる窯元と供給所ができます。
当時瓦は富と権力の象徴でもありました。
江戸時代になると防火性の観点から、一般に瓦が普及するようになります。
明治時代には住宅屋根の主要な建築材として瓦が用いられ、ピークを迎えました。
瓦の長所は耐久性、防火性、断熱性に優れ、部分単位での交換が可能なことです。
また、美観にも優れていて、瓦が連なる様子や独特の色合いと風合いは人目を惹きます。
古瓦は歴史ある建築材であり、美術的価値を有する骨董品として扱われることもあります。
地質、土の種類、焼成温度、釉薬の使い方によって質感や色合いが変わり、地域の特性を感じられる建築材です。
瓦市場は1980年を境に規模が縮小し、窯元の数はだんだん減少しています。
日本の瓦の名産地としては、良質な粘土が産出する三州(愛知県)、淡路(兵庫県)、石州(島根県)が有名です。
現在は生産過程がオートメーション化されていますが、日本の暮らしと地域の気候に適合するように造られ続けています。
草葺き(茅葺き、芦葺き等)
日本で最も古い屋根とされる草葺きはイネ科の多年草で覆った屋根の総称です。
草葺きにはススキ、アシ、イネなどが用いられます。
茎が表皮、皮膚細胞、維管束、間隙などで構成され、断面は空気孔が広く空気を保ちやすくなっています。
このことから草葺きは吸放湿性があり、高湿度のときには水分を吸収し、乾燥時には水分を放出します。
断熱性と保温性、通気性に優れているため、日本の気候に適した素材です。
草葺きは昔ながらの住宅に使用され、日本だけでなくドイツ、オランダ、イギリスなどでも普及していました。
草葺きが主流であった頃は、屋内にかまどと囲炉裏がありました。
火を焚くことで立ち昇る煙は草葺きを燻し、防虫・防菌の役割を果たすことで、家屋の耐久性を高めてくれました。
現在の住宅はガスコンロの使用が中心でかまどや囲炉裏などの設備がないため、耐久性を保つのが難しくなっています。
植物性の屋根は耐久年数が短いため、一定周期で取り換えが必要になります。
草葺きは取り換えの手間とコスト、防火性の観点からその数は減少しています。
木素材(板葺き、柿葺き、檜皮葺き等)
板葺きは草葺きの次に屋根の素材として登場しました。
木材自体は縄文時代から使用されています。
木は身近で豊富な資源で日本の風土、文化に適した素材です。
熱伝導率が低く、断熱性に優れています。
また、吸水性と伸縮性もあり、夏の湿潤な気候と冬の乾燥に適応できます。
地震に強いところも魅力的で、今でも木造の住宅は主に軸組工法で数多く建てられています。
板葺きの屋根は飛鳥時代に登場し、素材には杉、檜、椹などが用いられました。
使用された木材は木目が明瞭で防水性が高いことが特徴です。
日本の板葺きは板が薄く加工されています。
杮葺き(こけらぶき)は、木目に沿って薄く割った板を3cmほどの間隔で重ねて釘で打ちとめていきます。
檜皮葺き(ひわだぶき)では樹齢のある檜の皮を成形して、1.2cmほどの短い間隔でずらしながら敷いて打ちとめます。
細かく板を敷き詰めることで滑らかな曲線を描くことができ、繊細で美しくしなやな仕上がりになります。
板葺きは新素材の登場、良質な素材と職人数の減少、防火性の観点などから草葺きと同様にその数は減っていきました。
江戸時代に瓦屋根が普及したのは、板葺きの屋根が禁止されたことが関連しています。
現在では文化財や歴史的建造物に板葺きが多く用いられています。