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世界遺産の住宅Ⅲ FLRの住宅

住宅の世界遺産3 FLRの住宅

FLR(フランク・ロイド・ライト)とは

FLR(フランク・ロイド・ライト)はアメリカの建築家で1867年にウィスコンシン州で生まれで
近代建築のコルビジェやミースと並ぶ三大巨匠の一人で、空間の魔術師と呼ばれています。
FLRは数多くの住宅、そしていろんな種類の建造物の建築設計に携わってきました。
母親の教育方針で幼少期に与えられたブロックや図形の遊具で感性を培ってきたFLRは、幾何学を建築の設計に
取り入れ平面図形に丸と三角、四角を空間イメージに置き換えて、又、豊富な自然環境のなかで育った彼は、
自然界の植物等から造形を学びそしてそれらを有機的建築として設計に応用しました。
FLRの有名な建築様式はプレイリースタイルと呼ばれる
アメリカの大地のプレイリー(草原)地帯に溶け込む水平に伸びる建築デザインとなります。
水平で高さを抑えたプレイリースタイルの建物は安定感があり、シンプルで優雅な佇まいは当時の人々の目を惹きました。
プレイリースタイルは後にユーソニアンハウスと呼ばれる建築様式へと応用されます。
1900年代初頭はヨーロッパ風の建築様式である新古典派主義が主流でしたが、斬新なFLRの建築スタイルは一躍有名になります。
ところが、FLRは女性のスキャンダル問題を起こし、一時的に事務所を閉じるまでの事態に陥ります。
そしてFLRはアメリカを出国し、滞在先のヨーロッパで建築活動に励みます。
帰国後、FLRはアメリカで建築設計の業務を再開します。
FLRの建造物のほとんどはアメリカにありますが、日本の建築にも深い関わりがあります。
先の困難な時代に林愛作に請われ、旧帝国ホテルの設計を依頼され日本を訪れます。
落成のさなかに関東大震災がおこり建物の被害もなくその勇姿をとどめた帝国ホテル。
それらの他に旧林愛作邸、旧山邑邸、自由学園明日館(遠藤新)もFLRが手掛けた作品です。
初期の作品に比べると賑やかな印象で、シンプルな立体造形に複雑性を持たせた意匠が見られます。
1930年になるとFLRに最盛期が訪れます。
FLRは民主主義のための建築を呼びかけ、ユーソニアンハウスを展開します。
プレイリースタイルならではの自然と建物の一体感を残しつつ、一般市民でも求めやすいリーズナブルで高品質な注文住宅を実現しました。
FLRは建築教育を行うタリアセンの建設も手掛けます。
タリアセンは建築の学び舎であり、寮と作業場としても活用されました。
現在もタリアセンにはFLRの弟子たちが住みながら設計や実務を学んでいます。

FLRの建築群、住宅群

FLRは住宅をはじめ、商社、劇場、教会、宿泊施設、公共施設など幅広く建築作品を手掛けてきました。
有名な建築作品にはジョンワックス社、プライスタワーなどがあります。
ジョンソンワックス社は1936年にウィスコンシン州に竣工しました。
オフィスビルとして建てられたジョンソンワックス社は柱が特徴的です。
建物内にはキノコ形の柱が建物内にたくさん見られます。
FLRは自然界に存在するものをモチーフとして建築に多く取り入れました。
ジョンソンワックス社はオフィスとしてはお洒落すぎる印象がありますが、
快適に美しい空間で働くことによって豊かな時間を過ごせるようにFLRが設計を手掛けました。
プライスタワーはアメリカのオクラホマ州にある19階建てのビルです。
FLR作品の中では珍しい高層建築で高さは57mあります。
プライスタワーは建築から60年以上経ちますが、近代的な建築物に見劣りせずスタイリッシュです。
現在は宿泊施設として利用されています。
近年、プライスJrは伊藤若冲の絵のコレクターとしても有名になっています。
その美術館はFLRの弟子が設計しています。
住宅群ではウィンズロウ邸、ハートレー邸、カウフマン邸(落水荘)の他にも多くの住宅設計を行っています。
FLRが設計した住宅は建物の外観だけでなく、ユースリティと意匠にもこだわりがあります。
照明や家具、窓、絨毯、カーテンのデザイン及び食器にいたるまで細部にわたってFLRが担当し、依頼者の希望を最大限取り入れました。
プレイリースタイルを踏襲した建築は富裕層をターゲットとしていましたが、後にユーソニアンハウスの設計で
大衆者向けのコストの住宅を実現させました。

FLR世界遺産の住宅

2019年7月にFLRが設計した建築作品8点が世界遺産に登録されることに決まりました。
登録対象になった作品はユニティ・テンプルやグッゲンハイム美術館のほかに住宅も含まれています。
世界遺産に登録される住宅はフレデリック・C・ロビー邸、バーンズドール邸、ハーバート・キャサリン・ジェイコブス邸です。
フレデリック・C・ロビー邸は1910年に建てられた建築作品でプレイリースタイルの代表作です。
シカゴ大学の構内にあり、水平感と四角形を随所に取り入れた建築意匠が特徴的です。
建物内部にも趣向が凝らされ、統一感のある空間になっています。
バーンズドール邸はロサンゼルスにあります。
1918年に社交場として建てられた邸宅でタチアオイをモチーフにしています。
フレデリック・C・ロビー邸と同じくプレイリースタイルが取り入れられています。
家具の細部にも四角形のパターンとタチアオイのデザインが用いられ、FLRのこだわりがうかがえます。
ハーバート・キャサリン・ジェイコブス邸は1937年にウィスコンシン州に建てられました。
FLRの親友であるハーバート・キャサリン・ジェイコブスの依頼で建てられた邸宅で、ユーソニアンハウスの初期作品です。
プレイリースタイルを応用し、自然と建築の融合をコンセプトに外部内部ともに木製下見張り仕上げのローコストな注文住宅を実現しました。
世界遺産に認定された建築作品はいずれもアメリカにある建築物ですが、
今後日本にあるFLRの建築作品が登録されることが期待されています。

FLR没後設計図により新しい建物が建設されている

近代建築の三大巨匠であるFLRは1959年に生涯を閉じますが、残された数々の建築作品は没後も高評価を受けています。
2019年7月には世界遺産に建築作品8点が登録されることになりました。
登録作品であるグッゲンハイム美術館は設計から竣工まで長期間かかり、建物が完成したのはFLRが亡くなってからのことです。
FLRの遺作となった作品はマリン郡の庁舎です。
マリン郡はアメリカのサンフランシスコの北部に位置するカリフォルニア州の地域です。
FLRが設計依頼を受けたときすでに年齢は90歳でした。
庁舎の建設予定地は丘陵地で建築が困難とされていましたが、FLRならではの持ち味を生かした建築設計が行われました。
マリン郡庁舎が完成したのは1966年のことで、FLRが不在の中設計図をもとに建設が行われました。
竣工した庁舎は自然と建物を融合させた最高傑作になりました。
連なるなだらかな丘をかけるアーチ状の建物は全長450mを超える大作です。
建物には庁舎以外にカフェテラス、図書館、郵便局などが併設され、自然を身近に感じられる設計になっています。
初期のFLRの作品は四角を取り入れたシャープな作風が特徴的でしたが、晩作のマリン郡庁舎は対照的に丸みを帯びた円をモチーフにしています。
没後もタリアセンの設計者が管理しているFLRが設計した膨大な図面のなかで、現在でもゴルフ場の建物等として新しく建設されています。

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