北欧家具の歴史
北欧といえば自然豊かな地として有名です。
ノルウェー、フィンランドは世界有数の森林保有国で森林が国土の約7割を占めています。
スウェーデンには「人は死ぬと森へ還る」という言葉があるぐらい、森林は馴染みの深い存在です。
北欧はスカンディナヴィアと呼ばれることがあります。
厳密に言えばスカンディナヴィア半島はスウェーデンとノルウェーの2国を指します。
一般的に北欧に含まれる国はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5ヵ国です。
北欧の歴史はゲルマン民族の大移動によって始まります。
デンマーク、スウェーデン、ノルウェーのルーツは北ゲルマン人の定住です。
アイスランドはノルウェーからの移民により開拓されました。
フィンランドだけ民族系統が異なり、ユーラシア大陸から移動してきたフン族が原点です。
北欧の国ではそれぞれの歴史、文化が育まれてきましたが、いくつか共通点があります。
まず緯度が高いことです。
夏は日照時間が長くなり、白夜が見られます。
夜の21時を過ぎても空は明るく太陽が見られます。
冬は日没が早く日照時間が短くなります。
南中高度が低いため日中でも薄暗くなります。
言語はスウェーデン語が使われます。
フィンランドのみ民族系統が異なりますが、スウェーデンの支配下にあった時代もあり、スウェーデン語とフィンランド語が公用語です。
北欧5か国にはノルディック・カウンシルと呼ばれる行政委員会があります。
それぞれの国は独立していますが、5か国全体に関わることはノルディック・カウンシルで協議されています。
北欧家具、デザイン史で世界的に影響を与え始めたのは1900年以降のことです。
1920年から1930年にかけて北欧デザインが注目を浴びます。
1925年にパリ博で北欧建築、デザインが展示されました。
当時は近代化が進み、最先端の工業技術、建築が脚光を浴びていました。
北欧の作風は対照的なハンディクラフトです。
北欧諸国は地理的に物質的な豊かさに恵まれず、高度な工業技術が浸透していませんでした。
そのことが幸いして時代の影響を受けずに既存のデザインを改良する北欧のスタイルが高く評価されました。
1945~1960年はミッドセンチュリーと呼ばれる時期です。
第二次世界大戦後に北欧の建築家、デザイナーが様々な作品を手がけました。
美術展覧会のミラノ・トリエンナーレでは、北欧の建築家・デザイナーが受賞し世界的に認められるようになります。
モダンデザインと呼ばれる北欧デザインは素材感があり、温もりのある建築・家具は暮らしの原点を想起させてくれました。
近代に入り1980年以降はポストモダンを取り入れた作品が徐々に増えます。
ポストモダンが浸透しても、モダンデザインの人気は衰えず高評価を維持しています。
現在も60~70年前のモダンデザインを取り入れたインテリアが生産され続けています。
北欧家具のデザインの特徴
北欧デザインには特徴があり、自然素材を多く取り入れ、素材の質感を重視しています。
手触りが良く細部まで綿密に仕上げられた北欧家具は丁寧な造りがなされています。
デザイナーによって作風は様々ですが、余分なものを足さずに簡素な美しさを追求する姿勢が共通のコンセプトとして見受けられます。
北欧デザインはノルディックデザインと呼ばれることもあります。
暗さ、寒さ、氷雪を背景にしたデザインは機能的で美しく、飽きることがありません。
北欧で生産される家具は国内消費量が少なく、海外向けの輸出品がシェアを占めています。
世界で広く受け入れられるデザインで、同じモデルの製品が長く愛用されています。
モダンデザインのインテリアはモデルチェンジすることがありません。
北欧家具に用いられる素材はシンプルなものがほとんどです。
例えば木材です。
北欧の気候で育つ木の種類は限られています。
家具や建材によく使用される木の種類はバーチ、ビーチ、アカマツ、チークです。
チークは肌触りが良く、使うほど色味が出て美しい木材です。
バーチは広葉樹のカバのことです。
日本の北海道、東北地方にも白樺があります。
ツヤが良く均質な木質で家具や建材に用いられます。
ビーチはブナのことで割れにくく丈夫な木材です。
反りが出やすいことから敬遠されていたこともありますが、現在は改良が進んでいます。
アカマツはフィンランドに多い木です。
加工性が高く頑丈な性質を持っています。
家具、建材以外に紙の素材として用いられています。
そしてチーク材ですが、この材はデンマークの材木商が新しい木材料を探していたところに友好国である
タイで産するこのチーク材を見つけ(従来船舶の床に使われていた)この材がにわかにクローズアップされ多く使われるようになりました。
北欧では森林のサイクルが確立されているため、安定した林産業が行われます。
森林法が厳しく伐採と植林のバランスが上手く保たれるように規制を設けています。
北欧は自生する木の種類が限定されて平地が多いことから、地理的にも林産業に適しています。
北欧家具や灯り
北欧デザインの特徴は洗練された簡素な美しさです。
そのルーツには北欧の気候が起因しています。
年間の日照時間が短く、薄暗い日が多い気候の北欧では屋内で過ごす時間を大切にしています。
身近な家具、インテリアは実用性が高く、飽きの来ないデザインが好まれます。
北欧デザインが世界的に普及した経緯にはデザイナーの活躍が背景にあります。
そこで北欧出身の有名なデザイナーを少し紹介します。
アルネ・ヤコブセンは北欧デザインの巨匠です。
1902年にコペンハーゲンの商人の息子として生まれ、デンマーク王立芸術アカデミーを卒業後、デザイナー・建築家として活躍しました。
ヤコブセンが手掛けた有名な建築物にはSASロイヤルホテル、デンマーク国立銀行があります。
北欧デザインの代表作と呼べる家具も生み出しています。
脚に金属パイプを使い、背と座が一体となったプライウッド(成形合板)で作られたシンプルな椅子。
その代表的な椅子「アリンコチェア」は背と座が一体となった3本脚の椅子です。
積み重ねるとアリの大群のように見えて、ユーモラスな形をしています。
北欧家具で今も使われ続けている代表的な椅子に「Yチェア」、そして「ザ・チェア」があります。
これらをデザイン製作したのがハンス・ウェグナーです。
「Yチェア」(中国の椅子からインスピレーションを受けたといわれています)は、日本の建築家がこぞって今も使い続けている定番の椅子です。
「ザ・チェア」は、ケネディ大統領が使っていたことで有名な椅子です。
ヴェルナー・パントンは北欧らしくないデザイナーとして有名です。
革新的なデザインを追求したデザイナーで、インパクトのある色使いとジオメトリックなパターンが特徴的です。
又ポリウレタンなど新素材や残心的な形状の椅子「ファントム」等をデザインし、その意匠は多くの人々を魅了してきました。
又、照明ではポール・ヘニングセンはデンマークを代表する照明器具のデザイナーです。
年間の日照時間が短い北欧では灯りが重要な存在です。
北欧では太陽光を意識した柔らかな光が好まれます。
ヘニングセンの代表作は「PHランプ」です。
光源から直接光が出ないことが特徴で心地良い空間を演出します。
PHランプは造形性も高く、機能美を兼ね備えた名作として現在もインテリアとして人気があります。
現在は世界中のデザイナーが、家具から照明、クロス、雑貨まで幅広く北欧デザインを継承しています。
北欧家具と日本の住まい
北欧デザインは日本でも人気があり身近なところで見受けられます。
家具・インテリアで有名なIKEAはスウェーデン発祥です。
全国に展開されて、今や世界最大の家具メーカーとして有名です。
ファッションのH&Mもスウェーデンの企業です。
低価格でファッショナブルな衣料品は若年層を中心に定評があります。
女性に人気のマリメッコはフィンランド生まれの北欧デザインです。
日本にも直営店があり、人気の花柄はウニッコと呼ばれます。
食器で有名なアラビア、ロイヤルコペンハーゲン、イッタラも北欧発祥です。
子どもの玩具で人気のあるレゴはデンマークの小さな木工所から生まれました。
「よく遊べ」という意味があり、ロングセラー商品となっています。
1970年頃から放送が始まったアニメのムーミンはフィンランドの作家が描いた小説をもとに作られた作品です。
日本で北欧の家具、雑貨が受け入れられる理由の1つは北欧デザインが世界的に開かれていることです。
そして、日本の住まいへの馴染みやすさも理にかなっていると言えます。
北欧デザインは機能性を重視しているため、シンプルで使いやすい家具、雑貨がほとんどです。
余分なものを付け加えずに本来の美しさを追及する姿勢は日本のわび・さびに通じるものがあります。
精神的豊かさを大切にする意識は北欧国家と日本で共通していると言えるでしょう。
北欧は木造建築を主流としている地域でもあります。
日本のライフスタイルにフィットした北欧家具、北欧デザインの雑貨の人気はこれからも続くことでしょう。
最終更新日:2020年3月4日投稿日:2019年6月21日