石州瓦について

石見銀山

江戸時代に生まれた石州瓦は、島根県内を中心とした地場産業として現在でも受け継がれています。
とくに寒さが厳しい日本海側では、石州瓦の赤色の町並みが私たちの目を楽しませてくれます。
日本は、地震や台風などの災害が多い国です。
耐震性や耐風性を高めてくれる石州瓦は、まさに日本の物造りが生み出した匠の技といえるでしょう。
今回は、そんな石州瓦の魅力についてご紹介したいと思います。

●瓦の三大生産地と石州瓦の特徴

日本で生産されている瓦の中でも、「日本三大生産地」として呼ばれているものがあります。
それは、愛知県の東部で作られている「三州瓦」、淡路島で作られている「淡路瓦」、島根県の石見地方で作られている「石州瓦」です。

他の瓦と比べてみても、石州瓦は1300度という高温で焼く瓦です。
石見では、もともと石見焼のはんど(水がめ)として作られていて、その同じ製法で作られたのが石州瓦です。
耐火性の高い粘度と釉薬を原料としているために、ここまでの高温焼成が求められたといえます。
高温で焼き固められた石州瓦は、耐水性が高く、冷害や塩害にも強い特徴をもちます。
まさに石州瓦の生産地である島根県のように、寒さが厳しい沿岸地域に向いている瓦といえるでしょう。
石州瓦は、出雲地方でとれる「来待石」を釉薬として使用することで、赤褐色の見た目も特徴です。

●石州瓦と地元の赤瓦風景

石州瓦の見た目で特徴的なものは、なんといっても赤瓦でしょう。
島根県のなかには、石州瓦を使った建物が多数現存しています。
かつて城下町、宿場町、寺町、職人町、集落などとして栄えた建物が歴史的な建造物や町並みとして、今日にいたるまで大切に継承されているのです。
現在石州瓦の生産地としての江津(本町地区―歴史的建造物保存群)の赤瓦の甍街道は、とくに有名です。
県内では、平成19年に世界遺産として登録された石見銀山大森の町並みも人気です。
石見銀山によって栄えた豪商や江戸時代の武家屋敷が立ち並ぶ景観は、当時の面影を残したままその機能が保たれています。

さらに、島根県内で石州瓦と風景が調和しているといえば津和野地方ではないでしょうか。
山陰の小京都とも呼ばれる津和野は、世界的にも和紙の産地として有名です。
城下町として栄えた津和野は、見事な町造りがおこなわれている場所です。
石州瓦の赤色にくわえて、白漆喰の袖壁や格子窓が伝統的な和風の佇まいで調和しています。
緑豊かな風景の中に連なっている独特の赤い色合いは雄大な青い海と青空に包まれることで、赤瓦が続くこの町並みを一層美しく引き立てています。

●石州瓦が使われている所

関西から近い場所では、岡山の弁柄格子と石州瓦を使った備中吹屋の集落、そして備前の閑谷学校、広島の石州街道や山口の萩往還の街道沿いの建物群などに石州瓦が使われています。
しかし、石州瓦は近県だけで使われていたのではなく、全国津々浦々にその赤瓦の建築などが見受けられます。
石州瓦の生産地である石見(日本海側の港として)から、当時最先端の輸送方法であった北前船を使って、廻船問屋が日本各地へ売買する商材の一部としてと運ばれ普及しました。
石州瓦そのものが輸送されることにくわえて、石州瓦とともに瓦職人が移り住んだことにより、全国各地に独特の石州瓦を使った建物が数多く建設されたと言われています。

現在でも、石州瓦を使っている場所は全国に多数あります。
たとえば北海道にある姥神大神宮は、道内で最古の神社として知られています。
ここでは、江戸時代~明治時代頃から石州瓦が使われており、また北海道全体でも広い地域で石州瓦が用いられています。
そのような身近な素材だった石州瓦ですが、近年北海道では洋風住宅に適応するデザインとして石州瓦が新しい素材として再度注目を集めているのです。

●島根県芸術文化センター「グラントワ」

石州瓦の生産地である島根県に平成17年にオープンした島根県芸術文化センターの「グラントワ」は、フランス語で「大きな屋根」を意味しています。
その大きな屋根、そして壁にもこの石見地方伝統の赤い瓦の石州瓦が使われています。
床にもまた石州瓦と同じ製法で焼かれた赤いタイルが使われています。
その数は、屋根に12万枚そして壁に16万枚、合計28万枚にもおよびます。
そのためこの地方独特の赤い色が、この建物の中央に設けられた水盤に映え独特の雰囲気を持つ建物となっています。
地元住民に愛された石州瓦を使うことで、長く愛される建物になるような願いがこめられているのです。

もし島根県へ足を運ぶことがあれば、ぜひ建物の近くで石州瓦を観察してみてください。
「グラントワ」に使われている石州瓦は、近くで見るとさらにその魅力を実感しやすくなります。
色合いや風合いが一枚一枚異なる石州瓦はそれぞれを見る角度や時間などによって、異なる印象を与えてくれます。
また、風格のある佇まいにもかかわらず、動きを感じるデザインでもあります。
石州瓦を並べたときの輝きによって、波打つような流れが全体に見られます。
海の青さや空の青さに映える石州の赤瓦は、さらにその魅力を私たちに伝えてくれます。

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最終更新日:2021年8月6日投稿日:2021年8月6日